ガラスと線画の物語*第46話『霧の向こう』

2013年11月05日
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この街に暮らしはじめて数ヶ月がすぎた頃のことでした。

街角のカフェに勤めていたわたしは、
コーヒーのいい香りに包まれながら 顔なじみのお客と 
とりとめもない世間話をするのが毎日の楽しみでした。

そんなある日
顔なじみのお客のひとりで
毎朝やってくるおじいさんが こんな話をしてくれました。


コーヒーのいい香りが店内に立ち込めるころ

おじいさんは注文したものがくるまでのあいだ
決まってポケットから何かをとりだし 
いつもずっと それをながめているのでした。

「この街にはもう慣れたかい?」

「ええ、おかげさまで。毎日たのしいですよ。」

いつもの世間話をしながら わたしは

おじいさんが いったい何をそんなに熱心にながめているのか
ずっと気になっていたので、そのとき思い切って聞いてみました。

「ああ、これかい。
これは私が子供の頃、じいさんにもらった宝物だよ。
気になるなら みてみるかい?」

おじいさんがポケットから取り出してみせてくれたのは
手のひらにおさまるほどの ガラス製のブローチでした。

「ガラスのなかをのぞいてごらん。あんたには何が見える?」


ガラスの中は白く濁っていて もやがかかっているようで
朝の光をすいこんだように輝いていました。


「きれいなガラス玉ですね、なんだか霧がかっているみたいだ。」

「そのとおり、この中には霧がかかっているんだよ。けれど」

おじいさんは少しあたりをみまわすと

「ごくまれに霧が晴れることがあるんだ。その時
霧の向こうにあらわれるものがもう一度みたくてね。
いつも見逃さないようにと こうやって眺めているんだよ。」

「霧の向こうにあらわれるものって、なんですか?」

「それはむかし、この街のはずれにあったんだ。
私はそこでずっと暮らしていたんだよ。」


わたしの耳元でこっそりと話してくれたおじいさんは
しばらくしてからそれっきり 店にやってくることはなくなりました。

最後にモーニングセットを注文したおじいさんの席には
あのガラス製のブローチが残されていました。


わたしはブローチを手に取り、もう一度ガラスの中をのぞきこんでみました。

すると不思議なことに
ガラスのなかの霧はすこし晴れていて
その向こうには 美しい立派なお城が静かに佇んでいました。

わたしは 
ガラスの中に広がるその幻想的な光景に 一瞬
心を奪われそうになりました。
おじいさんもまた、この不思議なブローチにを心奪われ、
片時も離さず眺めていたのでしょうか。


いつかおじいさんに大事な忘れ物を渡せるよう、
そのブローチはずっとカフェの片隅にしまっています。


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パラルシルセより届けられた
次回のキーワードは『赤いポンチョ』
ガラス作品は、ゆきんこのピンブローチです。








みなさんはこのテーマでどんなお話を想像されるでしょうか。
次回は2013年11月12日(火)18時にお届けします。
お楽しみに☆



☆この企画は毎週火曜日18時 2つのブログで同時更新しています☆
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